もちぽさんのカフェ鳩の家で!



もちぽさん作 カフェ「鳩の家」でのひとコマ♪


らいん

ランチタイムの最後のお客様が、
デザートのイチゴゼリーと
ホワイトチョコレートのガトーショコラの盛り合わせを味わっていました。
そんな、店内にのんびりした空気が漂いはじめた時分です。
「何か来るよ」
りきが耳をピンと立てました。
私も耳をすましてみると、何か言い合いをする声と、
カラカラカラ…と、何か転がす音がすごいスピードで近づいてきます。
カラカラカラカラカラカラカラ……ガッチャン!  
ガンッ カランカラン…
どうやら門柱にぶつかったようです。
最後の音は、門柱の上に飾ってあるおもちゃのミルク缶が、
落ちた音でしょう。後で直して、庭のフリージアを飾ろうかな…
などと考えていると、今度は、どすどすどす、と重い足音。
バーン!とドアが開きました。
チビ犬太は驚いて、
トライフル用のカスタードクリームに右足を突っ込み、
果物を届けに来てそのままくつろいでいた犬太兄ちゃんに、
つまみあげられました。
犬太兄ちゃんは虹の橋の珍しい食べ物をバイクに積んで、
よく遊びに来てくれます。
誰にもまねできない鳩の家の料理のひみつの一つが、
これなのです。

さて、バーン!とドアを開けて入ってきたのは、
汗だくで息を切らしたラッ君のママと、
脇に抱えられたラッ君でした。
あのカラカラは、
ラッ君のお散歩用コロコロの音だったのです。
「ちょっと聞いてえな、もちぽちゃん。
今ラッ君の病院に行ったんやけどな、
この子、言うたら!スタッフも患者さんもナンパしまくりで…」
「今日は受付の鈴木さんと、
川向こうのコーギーのサユリちゃんの携帯番号ゲットやで~。
サユリちゃん、今日はママはんとやったけどな~、
あそこんちのお姉ちゃんが、まった、かわいいんやんか~」
「ラッ君携帯持ってたんだ」
りきが聞きました。
「COMODOの最新式やで。フラッシュがええから、
女の子が色白さんに撮れるんや。
みんな、きゃー、撮ってぇって言うんやでぇ」
「さすが…」
チビ犬太を洗って、オーブンのそばの物干しにぶらさげながら、
犬太兄ちゃんがあきれたような感心したような声で、つぶやきました。

「もう私、恥ずかしいて恥ずかしいて…」
「でもねママ、ラッ君のナンパはいつものことじゃありませんか
(それもどうかと思うけど)」
あまりのママのへこみぶりに、
少しかわいそうになった私は、
出来るだけやさしい声でそういいました。すると
「そやけどな、今日は隣町の大学から獣医の実習生が来る日やってん。
一度見お見かけした時に、
ジャニーズ系のかわいい学生はんなのよおっ。
今日のために新しい口紅とシャツを買うたのに。高かったんやから~!」
と、ママ。なんてことはない、似たもの母息子なんです。
1と3匹で目を点にしていると
「あのう、お会計…」
レジの方から声がしました。
そうそう、すっかり忘れていました。
もう一人お客様がいたんでしたっけ!
あわててレジへ飛んでいき、恐縮しながらお会計をすると、
そのお客様はドアのところでふり返って
「うちにもいるのよ、とっても美人のコッカーでルビーって言うの。
今度は一緒に来ようかしら?」
「又、来はったらええよ。ここの料理は折り紙つきやし。
僕はちゃんとしたデジカメ持ってくるわ~」
お客様は、にっこり笑って帰っていきました。私は、
気分を悪くされたのではないことにほっとしながら、
道までお見送りに出て、ついでにミルク缶を門柱の上に戻し、
曲がって止まっていたころころをまっすぐにすると、
お店に入りました。
入ったとたん、ラッ君が
「もちぽちゃん、シフォンケーキちょうだいな!」といいました。
ほんとになんてあっけらかんとしたわんこでしょう!
私はすっかり楽しくなって、まだしょげているママに
「病院から走ってきたら、お腹がすいたでしょう?ご注文は?」
と聞きました。
ラッ君のママは我に返ったように私を見て、それから少し考えて
「そうね、ぺこぺこやわ。それに全力疾走したし、
めっちゃ暑くてのどが渇いたわぁ~…
具がたっぷりのオープンサンドとアイスカフェオレ、頼みますぅ~」
と、言いました。
そのとき私は、キッチンの紅茶缶がカラで、
新しいものを出してこなければならなかったことを思い出しました。
それに、朝焼いたケーキやパイなどの焼き菓子は、大抵食糧庫の棚に並べて落ち着かせるので、
りきにオープンサンドを任せて、
裏の食糧庫にケーキと紅茶を取りに行きました。
キッチンに戻ると、
すでにオープンサンドのパンは具材の下に見えなくなっていて、
チビ犬太はホイップクリームを作り終わっていました。
まずはお茶の準備をしてからと、
私が紅茶の袋にはさみを当てたときでした。
「ケーキにはクリームと、あと、あれつけて!
杏とプラムの甘煮。それと…飲み物はほうじ茶で頼んますぅ」
ラッ君の言葉に私の手元がつるりとすべり、
紅茶の袋の隅っこが、
三角に切り落とされました。
私はそこにセロテープを貼って密封すると、
慌ててほうじ茶を取りに、
また食糧庫に入っていきました。
ラッ君とラッ君のママの前に、
食べ物と飲み物がそろったのは、
二人がお店に着てから45分も経ったときでした。
りきが作ったオープンサンドは豪快そのもので、
薄く切った黒パン(もはや隅っこも見えない)に、
燻製の牡蠣、チキンペースト、タン入りポークパテの厚切り、
ゆでたえび、
アボカド、バジル入りきのこのマリネ、酢漬けの赤ピーマンと玉ねぎ、
マスタード和えのキャベツなどが山盛り、
もう、お皿からもはみ出るくらい乗っています。
大降りのグラスに並々と入った、
アイスカフェオレの氷がカランカランと音を立てます。
ママはナイフとフォークで、具を二種類ずつ食べました。
チキンペーストとゆでたえび、
きのこのマリネとポークパテの組み合わせが、
特に気に入ったみたいです。
でも、やっぱり具に気を取られていたみたいで、
黒パンがやっと見えた時には
「いや、あんたはん居はったんやね~!」
なんて言ってました。
ラッ君はのんびりとシフォンケーキを食べ終えると、
口の周りにクリームをつけたまま、
ほうじ茶をおいしそうにすすりました。
器がすっかり空っぽになるころには、
二人とも(特にママ)機嫌がよくなり、和やかな雰囲気。
「来週も病院なんですよね?次は実習生はもういないだろうから、
ぴりぴりしなくていいですね」
と、私が言うと
「そうなんよ、来週は病院の手術日やねん、
助っ人の先生が来るんやけど、こっれがまった!おっとこまえやねん、
前日に美容院の予約入れてあんねん。」
「はあ…」
私の横では唖然として固まっている犬太兄ちゃんのお皿から、
チビ犬太がクッキーを一枚、失敬しました。
「ほんでね、どうせお薬をもらうだけやから、
ラッ君はお留守番してもらおうかとも思ってんの。
本当にお薬もらうだけなんよ。取りに来てくださいね、
としか言われてなへんしぃ~」
「そんな!あほな!!ママはん!!」
ラッ君が不満の声を上げました。
「いっつも、ママはんが、病院の帰りによる、お肉屋さん、
あそこにえらい別嬪のバイトさんが入ったって言う噂なんやんかいさ。
絶対見に行くでぇ~!」
またまた、母息子バトルのゴングが鳴りました。
盛大なため息をついた私(二人は気づきませんでした)に、
りきが無言で、いつの間にか入れたお茶を勧めてくれました。
こうして、カフェ「鳩の家」の予約帳がひとつ埋まりました。
来週もにぎやかになりそうです。



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